ベラクルスと旅の終わり


ベラクルスへと向かうバスの中で考えていたのは、旅の終着点をどこにするかということだった。当初はベラクルスの後に、メキシコシティ近郊のプエブラかタスコのどちらかに寄るつもりだった。しかし、家から(と言うのも、メキシコシティにある南バスターミナルは家からバスを使って十分程の距離にある)数時間で行ける所に数キロのバックパックを背負って行くのもなぁ、と思い、また、カンペチェで「終わり」を意識した途端に旅を続ける気が起きなくなったこと、そして、お騒がせ奨学金支払い元のCONACYTが急遽月毎のレポートを奨学生に課したこと*1等もあり、この地を旅の終着点とすることに決めた。


最後ということもあり、ホテルはちょっと奮発して250ペソ(約2500円)のところにする(が、後述の通り全然ダメなところだった泣)。思い立ったら吉日、メキシコシティ行きのバスのチケットをその後すぐに購入し、ついでにベラクルスの観光バスのチケットも購入する。最後の最後に「旅行者」らしい過ごし方をしたが、正直なところそれまでの「勝手気ままな観光」の方が私には合っている笑。退屈なバス観光を終え、ここでもビーチへと足を運ぶ。海を眺め、ビール(解禁笑)を飲みながら、長い様で短かった旅を思い出していた。



その日の夜はシーフード、特にパエージャが食べたかったので、ソカロに面した、ちょっと高目だが美味そうな店に入る。パエージャは特に時間がかかるらしく、出てくるまでにかなり待たされていたところ、その店のマネージャー的な方から「オォ、トモダチ、タベモノオイシイ?」と声をかけられる笑。このパターンだらけの旅だったな、と思いつつ、料理が運ばれてくるまで話でもして時間を潰すことにした。以下、彼及び他の従業員との会話を覚えてる範囲で再現する。"Es que estoy esperando, todavia no llega la paella. Tengo chingo de hambre."(いやぁ、パエージャまだ来なくて待ってるんだよね。かなり腹減ったよ。)ちなみにこの"chingo de 〜"やchingarという動詞を使った表現はメキシコ(及び中南米)的なスラング(?)である。スペイン語が話せない日本人だと思っていたらしい彼はそんな表現を(図らずも)使った私に驚いたようで、近くにいた従業員に"Sabes que, es mexicano. Me dijo que tiene chingo de hambre. Date prisa, jajaja."(おい、こいつメキシコ人だぜ。今オレに"chingo de hambre"って言ったよ。急げ急げ。)断っておくが、この程度の表現はハッキリ言って初級中の初級(は言い過ぎでも初歩であることには変わりない)なので、在メキシコ邦人でスペイン語の基礎が出来ている方の大半にとっては朝飯前である。故に、別に私の会話力が彼が言う様に「メキシコ人レベル」にあるわけではない(むしろ全然ダメである泣)。その後、メキシコに住んでいること等を話し、先に声をかけられた際の「トモダチ」は普通言わないよ、という例の「おせっかい」をここでも発動させる笑。が、"No, no, mi japones es super acade'mico, es lejos de la chingaderia como tu espan~ol"(いやいや、オレの日本語はすげーアカデミックなものだからさ、お前のスペイン語みたいな汚いのとは違うんだよね。)と言われる笑。ごもっとも笑。その後彼が去った後で、先程彼に急かされていた従業員がパエージャは時間がかかるからもう少し待ってほしい、と告げに来た。まぁ別に怒ってないから大丈夫、と言い、夕方に解禁したばかりのビールのおかわり(この日通算三本目)を頼む笑(後にやって来たパエージャはまぁまぁだった)。


ホテルに帰ると、部屋のトイレが壊れていたらしく、タンクの中で水が絶えず循環している状態になっていた。これがなかなかうるさく、フロントに訴えるも、そんなの知らないし今は直せない、と言われる。明らかにその支配人はその時見ていたテレノベラ(ドラマ)に熱中していて、邪魔するな、とでも言いたげだったが笑、まぁ仕方がない。諦めて寝ることにしたら、それ程気にならずに眠れた。


翌日の朝、朝食後にホテルを出て、資金に余裕があったためにバスではなくタクシーでバスターミナルへと向かう。後に「ベラクルスの人の会話はスラングで成り立つ」という偏見的ベラクルス人像を聞いたが、この時のタクシーの運転手はまさにその様な方だった。こちらが何か言う度に"Puta!"、"Chi'ngate!"と返してくるのは笑、それでも、どこか親しみ深かった感がある。


旅の最後に、時間の関係で初めてデラックスと呼ばれる一番良いクラスのバスに乗った*2。それまでの癖で待ち時間に水を買ってしまったのだが、デラックスは通常飲み物サービスがある(が、当然一人一本で、後はコーヒーのセルフサービスとなる)。貧乏性を露にさせてしまったわけである笑。周りを見渡しても皆「それなりの格好」をした人だらけで、小汚いのは私だけだった。相変わらずのつまらないアクション系映画に辟易しつつ、音楽を聞きながらぼーっとしているうちに、辺りは見慣れた風景に包まれ始めた。渋滞とゴミにまみれた、メキシコシティである。とうとう帰ってきてしまったなぁ、と思いながら、家路に着く。久々の我が家は、しかし思ったよりも悪くなかった。


2月1日の夜に始まったこの旅は、メキシコ南部とグアテマラフローレスベリーズの諸都市を巡り、2月23日にその幕を下ろした。三週間に及んだ旅で出会った数え切れない程の人々のおかげで、自業自得なメリダ事件を除いては平穏無事に旅をすることができた。今となってはもう届くことはないだろうが、それらの人々に対する感謝を最後に記しておきたい。

*1:この出来事の顛末を先日裏ルート(笑)で耳にしたのだが、その場当たり的な処置は彼等に対する不信感を一層募らせる結果となった。この際に課されたレポートで、前々から不都合に思っていたことに対する改善を要求したのだが、返答は勿論(?)まだない。先月分のレポートの期限が数日後に迫っているのだが、この「要求無視、回答すら拒否」を盾に居直ろうかと思っている。そのくらい、この機関から被っている不都合は大きい。もっとも、どうせ読んでないからレポートなんて出さなくても同じだ、という話も(留学プログラムの)先輩方から聞くが…。

*2:しかし、この時に利用したのはADOGLというものだったのだが、同系列でUNOというよりサービス内容が良いものもある。前者にはない待合室サービスが後者にはあるらしい。そんなサービスは別になくても良いのだが笑。