チチェン・イツァー


翌15日は朝から待望のニュースが舞い込んできた。姪が無事に誕生したとのこと。早朝にも関わらず例のボーダ○ォンの携帯を駆使し両親や従妹と喜びを分かち合う(注:この件については話し出すと、早速写メールを送ってもらってそれを壁紙に登録した程のバカ叔父加減丸出しでいつまでも語り続けることが予想されるので、この辺で切り上げることにする笑)。本当に良かった、の一言に尽きる。


この日は朝にカンクンを発ち、メキシコのマヤ遺跡を代表する遺跡の一つであるチチェン・イツァー(以下「チチェン」と略)を経由し、知人が数名いるメリダへと向かった。カンクンメリダからチチェンまでは一等バスが一〜二本と二等バスが数本出ているが、二等バスの通る道は悪路で、尚且つ時間もかかる(らしい)。ちょうど良い時間に一等バスが出ていたこともあり、この間もブルジョワバックパッカーらしく一等で移動する笑(流石にこのルートは二等で行くのが定石というものだろう)。メキシコ国内の遺跡で国が管理しているものは通常30ペソ(約300円)前後で入場でき、且つ私の様にメキシコ国内の学術機関に所属している学生は入場料がタダになる。しかしチチェンを初めとするメリダ州の遺跡は、その料金に上乗せするカタチで州政府が独自の入場料を取っているらしく(全部で80ペソ(約800円)程度)、学割も30ペソ分しか効かない(メリダ州の学生は全てタダになると聞いたが、その辺りは定かではない)。まぁそれまでの分を思えば(全て無料で入場していたので)安いものだし、遺跡自体が、圧巻、というカンジなので、損をした気分とかそういう思いは全くなかった。



日本ではメキシコの遺跡目当てに旅行する、という層はまだまだ相当コアな方々(「コア」とは私の中で最大級の褒め言葉なので、誤解なきよう笑)だと思うが、メキシコ旅行のついでに立ち寄っていく方等が近年増えているようだ。特にこのチチェンはカンクンに来たついでに足を伸ばす方が相当多いと予想される(実際そういう方々の姿を見た)。チチェンに限らずメキシコの主要な遺跡を歩いていると、どこからともなく物売りの方々から「コンニチワ」等と声をかけられることが多々あるが、それは日本人旅行客が立ち寄った「道標」の様なものと考えられよう。彼等(物売りの方々)にしてみれば私達は良い「顧客」であるし、そのために彼等は日本語にそれなりの興味を抱いている。


しかし、たまに間違った日本語(というより日本語的発想法)を身につけている方も少なからずおり(と言うか殆どがそうだし、仕方がないことでもあるのだが)、思わず苦笑してしまう。その代表的な例が、「トモダチ!」である。これは以前ベリーズ編でも触れた様に、スペイン語での"amigo!"という呼びかけを逐語的に和訳したものと考えられるが、周知の通りこの様な用法は日本語にはない。こういう場合、私はおせっかいにも(ただ単にヒマだということもあるが)その様な用法はないことを教えることにしている。すると大抵の方は、では何と言えば良いのかと聞いてくる。私がよく教えるのは、「オニイサン」と「オネエサン」である(これは一応話者同士の距離感を考慮の上に置いて考え出したものなので、異論反論は受け付けない笑)。普通はここで終わるのだが、チチェンで出会った方々は物覚えが素晴らしく(しかも一人が覚えると周りの方々にまで伝えていた)、私の中でのステップ・ツーである「オカイドク」まで進んだ方もいた笑。本当はこれに「マイド!」を加え、大阪商人顔負けの三段攻撃を教え込み、彼等の売り上げアップに貢献したかったのだが、流石にそこまでは及ばなかった(ちなみに免許皆伝は「ソコノカッコイイオニイサン」&「ソコノキレイナオネエサン」となっている笑)。と言う訳なので、チチェンで「オニイサン」「オネエサン」「オカイドク」という言葉を耳にされたのならば、それは恐らく私の仕業であるので、どうかご容赦下さった上で彼等から何か買ってあげてください笑。またこの様に商売に役立つ言葉を教えると彼等も別に何かを無理に売ろうとしないし、反対に大変感謝される。そればかりか近くを通る度に声をかけてくれる。そういう事情もあり、私はよくこの様な愚行に出るのである笑。


メリダ行きのバスを待っている間、フランス人の一家、特に少年二人と仲良くなった。私は「ジュマペール」や「メルシー」程度しかフランス語が分からなく、彼等二人も全くスペイン語(勿論英語も)が分からないながら、木の棒クズを投げ合って遊ぶ(終いには何故か私が殴られていた笑)。精神年齢が近いせいか熱中して遊んでいるとすぐに時が過ぎ、お別れかと思ったら彼等もメリダに向かうところだったらしく、仲良く同じバスに乗り込む。同じバスだと知った時の彼等二人の天真爛漫な笑顔は荒んだ心を癒してくれた(バスの中で二人が喧嘩をしてしまい、大声で泣いていたのはちょっと困ったが笑)。


あまり良い思いをしなかった日もあれば、ささやかながら思い出に残る出来事が沢山あった日もある。旅とはこういうものなのだろう。そんなことをぼんやりと考えているうちに、バスはメリダに到着した。