トゥルム&カンクン、カリブ海とのお別れ


チェトゥマルのターミナルに着いた時にはもう正午を回っていたのだが、チェトゥマル〜トゥルム間はバスが豊富で、難なくチケットを入手できた。出発の時間まで時間があったので、パン・ビンボ(メキシコ最大のパン会社)のマフィンを買い、久し振りに頬張る*1。そうこうしているとバスが到着し、トゥルムへと向かう。


メキシコの中長距離バスは大別して三つのランクがある。上から順に、デラックス、一等、二等となっている。デラックスは特別待合室や飲み物のサービスがあり、トイレも清潔で座席も広々している。一等は映画が見れエアコンも付いていて(というか効き過ぎで寒いくらい)、会社によっては飲み物のサービスもあるが、座席はデラックス程広くない。二等は市バスに毛が生えた程度である。私はバックパックを持っての長距離移動は一等(最後に一度だけ時間の関係でデラックスに乗った)、日帰りで近くの遺跡や街をみる場合は二等と、メキシコでは一般的なバックパッカーの移動方法を採ったのだが、やはりメキシコのバスはグアテマラベリーズのそれと比べると快適だった。何よりぐっすり眠れる*2。南部一帯を股にかけるADOグループ(OCC、ADOGL、UNO)には旅を通じて大変お世話になった。


快適な一等バスに揺られてうとうとしてる間にバスはトゥルムの街に着いた。この街は遺跡とビーチ以外何もない街だったらしいが、近隣に海洋公園ができたのと、カンクンの喧騒を逃れようと欧米系の旅行者が大挙して訪れるようになったため、ここ数年観光開発が著しいらしい(タクシーの運転手の方談)。確かに多くの旅行者を目にした(日本人のグループにも会った)。私はそれ程気にならないが、こういう状況が嫌な場合は人がまだ起き出さない早朝に動くのが吉である。そういう考えもあり、遺跡には翌13日の朝に足を運んだ。朝の陽光を受けたカリブ海もまた素晴らしかった。



このトゥルムはそれまでジャングルを中心に発展していたマヤ文明が最後に到達した地である(らしい)。その後彼等が海へ向かったのか、それともこの地で歴史に幕を下ろしたのか、私には分からないが、いずれにせよこの絶景に息を飲み込んだのであろうことは想像に難くない。ビーチのあるこの遺跡は、それまでの遺跡と趣が大分異なっていたが、とても綺麗だった。


昼過ぎにトゥルムを出発し、カンクンへと着いた。今や世界有数のリゾート地であるカンクンは、高級ホテルとビーチがあるホテルゾーンと、より庶民的なセントロ、という風に地理的・階層的に「隔絶」されている。当然の如くセントロの安宿を取り笑、この日はセントロをぶらぶらと歩いて時間を潰した。夜は密かに予定していた通り、『地球の歩き方』で絶賛されていた日本食レストランの「山本」に行く。メキシコ在住の学生にとってたまの贅沢と言ったら外で和食を食べることであるが(駐在の方等にとってはそうでもないらしいが)、日本食レストランの「物価」は日本のそれに準じていて、メキシコの金銭感覚にどっぷり浸かった者にとっては少々高い*3。それ故、あまり美味しくないところには(少なくとも私は)二度と行かないのだが、「山本」はこれまで行った何件かの中でも一、二を争う程の店だった(メキシコシティでは「でいご」が良いが、「山本」は(あくまで私の基準で言うと)「でいご」と同じかそれ以上だった)。女将さん(と呼ぶには若過ぎる)がこれぞ大和撫子といった方で、「一見さん」の、しかも小汚いバックパッカーの私にも大層気を遣って下さった。肉そばと鉄火巻きにビール二本で約200ペソ(2000円)なので決して安くはなかったが(それにしても庶民的なメニューだ笑)、それでも大変有意義な時間を過ごさせてもらった。


明くる14日は午後からビーチに足を伸ばそうと思っていたが、気分を害する出来事に見舞われたために予定を変更し、カフェ等でのんびりと過ごすことにした。気分を害する出来事とは、フローレスでも散々辟易させられた、ドラッグのバイヤーにまつわるものだ。朝に頼んでおいた洗濯物を取りに昼過ぎにバスターミナルの近くを歩いていたところ、向こうから歩いてきた男性に突然「英語?スペイン語?」と聞かれ、何が何だか分からないままスペイン語を少し話すと答えると、堰を切ったように「お前どこから来たんだ?日本?香港?まぁいいや、それよりお前アレ探してんだろ?(原文:"Y esta's buscando algo, no?")オレ全部持ってるよ、マリファナ、コカイン…(原文:"Lo tengo todo, marijuana, coca...")」と続ける(前半部は記憶が曖昧だが確かこんなカンジだった、原文が付してある部はかなり印象的だったので今でも覚えている)。またかよ、と思いつつ、ドラッグの類に興味はないと丁寧に告げると、なら用はないとでも言いたげな顔で何も言わずに立ち去る。自分から話しかけてきたにも関わらず。しかも「断定口調」で。この辺りで薄々気付き始めたのだが、これは確かに私の側にも問題はある。外見(と言うか主に服装)だけをとれば、多少チャラチャラしていて、初対面の方には「軽く」見られる場合が圧倒的だ。それは認めざるを得ない笑。しかし、この断定ぶりには(文字通り)泣きたくなった。このままビーチに行ったらもっともっと声をかけられるだろうと思い、ビーチ行きは断念した(もう散々ビーチは見ていたという事情もあった)。


カフェとホテルで読書等に興じながらゆっくりと過ごし、夜になり食事をしに外へ出たのだが、この時もホテルの前を数分歩いている間に二度も「その手の方」から声をかけられた(二人目の方には「マヤク?」と言われた)。面倒極まりなかったので無視を決め込んでいると後ろからたどたどしい英語で何かを叫び続けられたが、もう相手にする気はさらさらなかった。と言うか、あまり外を歩かなかったにも関わらず一日に三度も「お誘い」いただくというのもいかがなものか(上述の様に私にも何かしらの責任はあるのだが)。その後も入ったレストランで十数分無視され続けてぶちキレて出てくるというアクシデントがあったが、カンクンは初めからそれ程期待していなかったのでフローレスの時ほどガッカリ感はなかった。


カリブ海とのお別れは、この様にあまり良いものではなかった。が、それがカリブ海の魅力を損なうかと言われれば、勿論「否」、である。カリブ海は今まで見たどんな海よりも青く透き通っていた。

*1:川一つ隔てただけのグアテマラではビンボを全く見なかった。このことを話すと、いや売ってるとグアテマラで言われたが、しかしメキシコと比べたら「売ってる」などとは言えない。メキシコではかなり田舎の方へ行ってもビンボとコーラは必ず売ってる。私はビンボ党だったのだが、ビンボのパンには考えられない程の保存料が使われているというのを最近聞き、今ではティア・ロサという別の会社のものを買っている。恐らく大差ないのだろうが、精神的に何となくこっちの方がいい笑。

*2:ただ、一等とは言えスリなどが起こらないとは限らないので、寝る場合にも何かしらの対策が必要である。あしからず。

*3:勿論自宅で作れば安上がりだし、私自身夕食の殆どは和食を作っている。しかし、それ程手の込んだものはやはりできないし、レストランで食べる和食はまた格別のものなのである。これは日本を離れてみないと分からないことかもしれない。