最悪だったグアテマラ入国時のエピソード


2月7日の早朝、パレンケのホテルから出ているツアーで国境を越え、グアテマラフローレスへと向かった。そしてこのパレンケからのツアー及びフローレス滞在が、この旅で最悪の思い出となった。


事の発端はメキシコ側のイミグレーション(出国審査所)で起きた。片言のスペイン語しか話さない男性が、イミグレーションの職員の質問を完全に無視し、用意してきたらしいフレーズをたどたどしく読み上げる。彼は「グアテマラに行きたい、期間は〜日間で…」と続ける一方、職員は「出身は?」と繰り返し聞くが、男性は勿論聞いてない*1。職員の目に苛立ちの色が見える。彼の後ろで待っていた私はいたたまれなくなり、英語で「どこから来たのか聞いてます」と通訳したのだが、男性は何だそんなことかとでも言いたげな顔で出身国を伝える。見かねた別のヨーロッパ系の旅行者がその後の通訳に入りその場は事なきを得たが、職員はその一件で不機嫌になったらしく、次の私の出国手続きはなおざりにされた。事前に聞いていたのと手続きが違かったので質問をしたのだが、不機嫌モードに突入した彼女にはもう何を言っても無駄だった(この時の彼女の間違いはメキシコ再入国時に別のイミグレーションの職員によって「立証」された)。しかしこれはその後続いた一連の最悪な出来事の序章に過ぎなかった。


結局彼女の間違いに気付きつつも為す術なく、ボートで国境を越えることになった。気を取り直し、彼女の間違いを愚痴りあっていたノルウェー人のバックパッカーと一緒に写真を撮りながら川を渡ること数十分、グアテマラ側の国境へと到着した。



この国境での体験もある意味衝撃だった。到着してすぐに、地元の子供達数人が駄賃稼ぎに私達の荷物運びを手伝おうと寄って来た。彼らの身長の三分の二はあろう私のバックパックは完全に無視されていたのだが笑、小さめのバック等にはみな一目散に走り寄って来た。しかしそんな彼等に向けて、同行した女性は半ばヒステリックに「やめなさい!」と叫び、子供達から自分の荷物を無理やり奪いだす始末。一同無言の重い空気が辺りを包む。


その後ツーリストカードを記入し、バス*2の運転手の方が働く気になるまで待たされたので笑(勿論実話)、約十名からなる一同は国境の川の辺りでしばし休憩することになった。この時、先程荷物持ちをしようとした子供達がまた寄ってきて、1ペソかキャラメルちょうだい、とせがんできた。色々と思うところがあり基本的にこの手の申し出は断る様にしているのだが、その断り方というのも難しい。私は雑談しつつ笑顔でやんわりと(偽善的に、とも言う)断るのだが、先程のヒステリックな女性の対応には再び驚かされた。彼女は普通に断った後に、同行していた彼女の夫と友人に向かい、「キャラメルならば自分の肌を舐めればいいじゃない」といった旨のブラックジョークを吐いた(少女の肌は浅黒かった)。フランス語だったので、キャラメルとスペイン語で「肌」に当たるpielらしき響きの言葉しか聞き取れなかったのだが、ご丁寧に肌を舐めるジェスチャーをしていたのでおそらく私の解釈通りだと思う。もう何も言うことはない。


その後入国の手続きをし、道なき道をフローレスへ向かってひた進む。



この車内でも先程の夫婦とその友人がやってくれた。舗装もされていない道で窓を開けていると砂埃が舞い込んでくるので、私は窓を閉めていた。私の前と後ろの席は空いていて、その窓も勿論閉めていた。前の席の窓を開ければ自分に埃がかかり、私の席とその後ろの席の窓を開ければ更に後ろにいる方々の許に埃がいくからである。しばらくすると、通路を挟んで向かいに座っていた例の夫婦の男性が私の前に座り、窓を全開にして風景を眺め始めた。バスの走行中、埃は彼にかかることはない。それだけでも十二分に不快だったのだが、その男性は車内で堂々と煙草を吸い始める始末。バスの中で煙草を吸うこと、しかもその煙が私の顔にダイレクトにかかっていることに対し、彼は何も気に留めていない様子だった。続け様に彼の妻と友人も彼に続き車内で堂々と煙草を吸い始める。私は普段は煙草を吸わないが、酒の席で付き合い程度には吸うので、煙が嫌とかそういう類の嫌悪感はない。しかし、彼等の行動はどうなのだろうか。イライラの絶頂にきていたため、本気で「あなた方の国ではバスの車内での喫煙は皆することなのか」とでも言ってやろうかと思ったが、二周り以上年下の得体の知れないアジア人にそんなことを言われても聞くような相手じゃないだろうと思い、ふて寝することにした(埃やら煙草の煙やらで殆ど寝れなかったが)。


そんなこんなでフローレスに着いたのだが、ここではこのツアーの主催元である某旅行会社の実情を拝ませていただいた。どうやら幾つかのホテルと蜜月関係にあるらしく、特定のホテルの斡旋、自社のツアーを扱ったホテルに連れて行き、ツアーをしつこく薦める、等といったことがあった(みたいだ)。こんなことは他の観光地でもよくあることだとは思うが、ホテルを見に一旦降りた男性がバスに戻ってきて開口一番に「ありゃマフィアだよ…」と言っていたので、それなりの事態だったのだろう。私自身、疲れと前述のイライラで早くホテルを決めて落ち着きたいと思っていて、バスの中にまで明日以降の各種ツアーの宣伝をしにきた男性にもその旨を伝えたのだが、その男性はスペイン語が分かってないだけだと思ったらしく英語で全く同じ内容を説明し始めた。ハッキリ言って頭にきていたので、スペイン語が話せること、疲れているとさっきも伝えたこと、もう何も話したくないことを(多少キレ気味に)伝えてやっと納得してもらった。更に、一々知り合いのホテルの前に停車して逐一斡旋するバスの運転手にも嫌気がさし、もう降りていいかと聞いたら、知り合いのホステルも回るからダメだと言われ、もうこの時に精神的にアウトとなった。荷物を持って勝手に降り、歩き出した私の後ろで、何だかぶつぶつと言っている方(運転手やホテル関係者、旅行会社関係者)が数名いたが、生憎そういう類の汚い言葉の方が得意な私なので、何を言われているか大体分かった。それが本音かよ、と心の中で一人呟いた。

*1:スペイン語が話せるかどうかということを言ってるのではなく、相手の話を頭から聞くつもりなどなく自分の言いたいことのみをとうとうと語るというのはどうか、と思う。たとえ相手が話す言葉が分からなくとも。

*2:パレンケの代理店では一等バスだからと言われていたのだが、蓋を開けてみれば廃車寸前のマイクロバスだった笑。