さよなら、カタリーナ


我が家のアイドル、カタリーナとの別れは、本当に突然やってきた。マンションを探す、という話をしていたのをたまたま聞いてはいたが、もっと先の話だと勝手に思っていた。しかし、彼等はもう出て行ってしまった。


一階がキッチン、二階に各自の部屋、という構造は幼児にとって危険ではないか、とは前々から思ってはいたが、オスカル・ソニア夫妻もきっと、同様のことを考えていたのだろう。マンションを探すのも、カタリーナのためだと確かに言っていた。


彼等の新居は、夫婦揃って働く病院の近くであり、また、このステイ先からもすぐ近くである。なので会おうと思えばすぐに会いに行ける距離であるし、買い物中にばったり出くわすこともあるかもしれない。すぐそこだから、と彼等が笑顔で言っていたのも、きっとそのせいだろう。


しかし、毎日毎日、愛くるしいカタリーナの笑顔を見て、日本語を教え込むのを楽しみにしていた私にとっては、その空白感は一入である。オスカルは進んで日本語をカタリーナに教えようとしていたが、ソニアは、スペイン語もまだ覚えていないのだからやめてくれ、と苦笑いしていたことを、今となってはしみじみと思い出す。


さよならの度にメキシコが近づく、という様なことを出発前に書いた様に記憶している。こちらに来てからは至る所で出会いの連続だった。まさかこんなに早くさよならを言うことになるとは、予想だにしていなかった。


きっとすぐにまた、その辺の道端で、仲良く歩く三人を見るだろう。その日まで、カタリーナ、どうか私のことを覚えていて、と、今は願って止まないのである。