"La ciencia es un hecho social"(「科学とは社会的現象である」)


"Introduccio'n a las ciencias sociales"の講義は火曜日から始まった。メキシコでの初講義ということで多少緊張していたが、シラバスの間違いを教えてくださった方もこれに出てみる、とのことで、幾分緊張が緩んだ。


講義が始まる大分前に教室に着き、教授が来るのを待っていると、メキシコ人の学生に隣に座っても良いか、と声を掛けられた。メキシコには日本人が多いとは言え、やはり間近で日本人(と言うよりアジア人)を目にすることはあまりない様で、興味があったのだろう。教授が来るまでの僅かな時間、他愛もない話をする。COLMEXの学生は真面目で硬くて冷たくて…と聞かされていたのだが、やはりそれもイメージに過ぎないのだな、等と考えていた。


しかし、それまで談笑していた学生達が、教授が教室に入ってくるや否や、目の色を変えて姿勢を正したのだった。COLMEXはメキシコの中でも指折りの難関大学で知られている。学生の質というか、気合の入り具合をこの時まざまざと見せ付けられた。


そんな空気の中、教授が手にしていたコーラを一口飲んだと思いきや、いきなり口を開いた。


"La ciencia es un hecho social"(「科学とは社会的現象である」)。


突然のことで初めは何が起こったのか分からなかったが、その教授はそんな私を(そしておそらくは他の方々もを)尻目に滔々と語り続けた。


その「演説」の内容は、「科学」とは、「社会」とは、といったものだったが、ハッキリ言って冗長だった(とは言え、六割から七割程度しか聞き取れなかったのだが)。芝居がかったスピーチは、講義の主題たる社会科学を語るのには適さないのではないか、等とさえ思ってしまった。だからと言ってこの講義自体の意義を否定するつもりはない。途中で配られた講義目録を見た限りでは、広く目配りがされてるな、という感じを受けた。オルテガウェーバー、ジェームズ、カント、イェーリングマルクスヴィトゲンシュタイン等、よく知られた思想家の古典を手がかりに社会科学を捉える、というスタイルも入門には適しているだろう。私自身古典はあまり読んでないのでいい機会だとも思った。しかし、週に二回の講義の度に一冊の古典を読む(勿論スペイン語で)というのは、主たる研究テーマが他にある私にとってはあまりにも厳しすぎる。ウェーバーマルクスに関しては邦語訳をたまたま持ってきてはいたが、そうだとしてもやはり厳しい。