不思議な出会いからフィエスタまで・前編


夕方にQuere'taroを後にし、八時過ぎにメキシコシティへと戻った。そこで一行は解散となったが、私ともう一方はその足で我が家の近くにあるCentro de Coyoacanへと向かった。独立記念日の前夜といえば、大統領が国立宮殿のバルコニーからZo'calo(ソカロ、メキシコシティの中心部)に集まる、五十万人とも言われる群集に向けてイダルゴの独立蜂起を称えて叫ぶ、という催しがよく知られているが、言うまでもなく五十万人の人の波に埋もれてしまったら大統領のgrito(グリート、叫び)など聞こえないだろうし、また大変危ない(スリが多発することでも知られている)。日本のガイドブックの類には出ていない(と思う)のだが、実はコヨアカンのセントロでも独立記念日を祝う祭りが行われる。


メトロのMiguel Angel de Quevedo駅に着いた頃にはもう夜の九時を回っていたので、駅近くのファミレスで食事を取り(余談でありまた個人的な意見なのだが、メキシコのファミレスは値段が高くて味も悪く、その辺の安いレストランの方がずっとマシである)、セントロに向かう。日帰り旅行だったために荷物は大き目のリュック一つだけだったが、邪魔にもなるし通り道でもあるので一度家に寄ってから行くつもりだった。いつもの様にAv.Hidalgoに差し掛かるまでは。


角を曲がってAv.Hidalgoを進むと、路上に座ってビールを飲む怪しげな二人組に声をかけられた。別に犯罪の匂いを漂わせていたわけではなかった(アルコールの匂いは多分に漂わせていた)が、多少急いでいたところにいきなり英語で話しかけられて面食らってしまった。しかし、先方の強引なペースと私達の中にあった多少の好奇心が見事に融合し、その後長々と続くことになる立ち話が始まってしまった。


二人はAv.Hidalgo沿いに一緒に住む、中年男性と若者(多分家族)だった。中年の男性の方は多くのメキシコ人と同様にアメリカを嫌っているのに、何故か英語を(それもかなり滅茶苦茶な英語を)喋りたがっていて、私とお互い滅茶苦茶な言語(彼の英語vs私のスペイン語)で会話を続けた。若者の方は中々のナイスガイで、私もこの近くに住んでいると言うと今度山に行くから行きたかったら一緒に行こう、と誘ってくれた。こう書いてみると彼等は陽気で心優しいメキシコ人、というカンジだが、彼等にも弱点が、それも致命的な弱点があった。それは同じ話を何度も何度もする、というものだった笑。きっと酔っていたせいだろうが、セントロに行って騒ぐのを楽しみにしていた私達にとっては、ここで三十分(!)も足止めを食らうのは痛すぎた。何とか話の切れ目を探し、セントロに行きたいのでもう行くよ、と告げる。


セントロに行くと言うと彼等はかなり心配してくれた(が、それと共に拘束時間が増えたのは言うまでもない笑)。そして彼等は驚愕の手段に出た。その辺を歩いていた若者五人組を捕まえ、「この日本人二人がセントロに行きたいって言っているから、お前ら連れてけ。ちゃんと連れてくんだぞ!」と、私達の保護を見ず知らずの若者達に頼んだのだ。この時は何が何だか分からなく、若者達も乗り気でみんな感じが良く、何より酔っ払いから解放されてセントロに行きたいという気持ちが強かったので、彼等と共に行くことにしたのだが、よくよく考えてみるとかなり無茶苦茶ではある(また長々と足止めを食らったため仕方なく荷物は持っていくこととなった)。しかし時として無茶苦茶なことが起こるのが、おそらくは人生というものなのだろう。