メキシコ関連で卒論を書きたい人のために


卒論も大詰めになってから気付いたんですが、かの有名な国本伊予先生の『メキシコの歴史』の巻末に、1990年以降から2000年頃までのメキシコ関連の主な論文が載ってるんですよね。自分は経済(開発経済)系の卒論を書いているんですが、まぁ主要なものは網羅されてるかな、というカンジ。正直一年近く論文検索をしてきたのでもう大体入手済みでしたが、これは便利です。


まぁ何で今更気付いたかというとたまたま図書館で借りてきたからなんですよね。でも卒論の一部で自分が書かなければならないもの(80年代以降のメキシコ政治経済史)に関する記述は少なかった(ってか殆どない)んですが。


キーワード検索の結果とかを見てるとメキシコの学術情報を探してこのブログに来ちゃう方もいる様なので、ちょっとお役立ち情報として載せておきます。ただ、2000年代のものはやっぱり地道に探さなきゃダメだよ、とも書いておきます。

河合香織『セックスボランティア』


「卒論が〜」とか言いつつ、卒論と関係ない本も結構読んじゃってる今日この頃。まぁ息抜きになりますもんね。


で、先日読んだのがこの本。これは単行本で出た際にかなり話題になってましたが、ちょうど留学する直前だったので読めず、また帰国後も中々手に取る機会がなかったんですが、文庫化されたのを機に購入。


題名から変なイメージを持ってしまうかもしれませんが、これは「障害者の性」をテーマにしている本です。著者が行った長期間の取材が元になっていて、「障害」と「性」の関係を多面的に描いている良い本だと思います。「セックスボランティア」を需要する側の事情、ボランティアを体験した側の本音、セックスボランティアが制度として確立しているオランダの状況等、論じ難いテーマが懇切丁寧に書かれていました。


本の内容については、もう大分前に出たものだしアマゾンやネット上の書評で散々書かれていると思うので割愛し、以下、個人的な話を一つ。


自分の母親は教師をしていて、この10年ほどは養護学校に勤務しているので、障害については折に触れて色々な話を聞いたり考えさせられたりしてきました。母の学校は軽度の知的障害を持っている生徒を主に受け入れているらしく、卒業後の就職先を探す仕事等もよくしていました。卒業生と定期的に集まったり、何人かの生徒さんとはうちの家族と一緒にご飯を食べに行ったりもして、母もこの仕事を楽しんでいる様でした*1


でも楽しいことばかりではなく、卒業生の中には色々とトラブルを起こしてしまう生徒さんもいたようで、母や母の同僚の方々がその対処をすることも何度かありました(この辺は複雑な事情が絡んでたりもします)。そして母が語ってくれたそういったトラブルの中に、風俗で雇われていた子の話がありました。


その子はよく母に電話をかけてきていた子でした。電話の内容は卒業後に就いた仕事の事など、他愛も無いことだったと思います(って、又聞きなんですが)。でもある時からしばらく電話が途絶えてしまいました。就職先にも行かなくなってしまったそうです。心配になった母の学校の先生方が探したところ、某都市の性風俗店に雇われていたそうです。しかも、相場からすると考えられない程の薄給で。まぁ騙されていたみたいです。


当然そういうところに置いておくわけにもいかないのですぐに辞めさせたそうですが、以後もその子はちゃんとした職に就いては辞め、同じ様な風俗店で働き、というのを繰り返したそうです。と言うか、二、三度そういうことがあった、という所までしか聞いていません(大学入学で実家を離れたというのと、そういうことを親には聞きづらい、という二つの理由のため)。


河合さんは、今までタブー視されてきた暗部をポジティブに捉え直そうという意図で、「障害者の性」を(全体的に)ポジティブに描いています。しかし、他方でこういう風に風俗店で薄給で雇われている障害者の子もいます。勿論これは色々な捉え方ができて、見方によれば例えばこの子の場合は何度も風俗店に戻っているんだから自発的な行動だ、とも言えなくはないし、それがこの子の性的な自由の追求*2だなんてことも言えちゃうかもしれません(だいぶ頭のネジが飛んだアイディアではあるけれども)。それでも自分は、やはりこの子の話がネガティブな意味での「障害者の性」の一部を映し出していると思います。


とは言え、これは河合さんへの批判でも何でもありません。河合さんが描いたのも「障害者の性」における一つの現実で、上記の性的にも金銭的にも搾取(左翼っぽいなぁw)されている子の話も一つの現実、というだけの話です。現実なんて往々にして多種多様な事象の集合体みたいなものですよね。ただ、未だにそういうこともある、ということは言っておきたいな、と。まぁありがちな話ではあるんですけども。



セックスボランティア (新潮文庫)

セックスボランティア (新潮文庫)

*1:実は母が養護学校に赴任した頃、自分はあまり良い思いをしていませんでした。当時中学一年だった自分は、学校で見せられた山田洋二の映画の冒頭部に衝撃を受け、自分の母親の仕事も映画の様に大変なものなのか、などと考えてしまったんですね(勿論そういう考え方が差別的だということは中学一年の坊主ながらに分かってはいたんですが)。ただ楽しそうに仕事のことを話す母の姿を見たり、自分の中にあった偏見のようなものが氷解していくにつれて、そういう考えも変わっていきました。

*2:「寝た子を起こすな」ということがこの本の中で書かれてますが、それとも関連しそうですね、この行は。