まえがき


幾つもの偶然と幸運が重なって、今年の夏から約一年間、メキシコに留学することとなった。


大学入学直後からメキシコに留学したいという希望は抱いていたが、それがこのように現実のものとなるとは思いもよらなかった。これは様々な方々の御尽力のおかげに他ならない。ややもすると怠けがちな(いや実際怠けているのだが)私を、時には厳しく、時には優しく、支えてくれた方々の存在がなければこの様な機会を得ることはなかっただろう。簡単ではあるが、まずここに謝意を表しておきたい。


何故メキシコなのか―。これはよく聞かれることであるが、理由は幾つかある。


まず、私が大学でスペイン語を学んでいて、またラテンアメリカ地域に関心を抱いていることが挙げられる。スペイン語を専攻していると言うと大抵、スペインに行くのかと聞かれるのだが、大学を選んだ高校の時から私はスペインには然程興味がなかった。これは幼い頃からサッカーに慣れ親しんでいて、アメリカスの国々によりシンパシーを感じていたのだと考えられる。


また、私が大学で専門的に学んでいる貧困と開発といった問題を考える上で、メキシコは示唆に富んだ国であるということも理由の一つである。NAFTA、FTAA、サパティスタ等、切り口は無数に存在する。しかし、これは私の力量不足・勉強不足のためなのだが、そういった問題に対する私自身の立場・態度というものは未だ確立されていない。一年間の留学及びこの留学記は、その立場や態度を確立させるのに役立つだろう。


そして最大の理由は、今回の留学のプロジェクトは殆どお金がかからないことである。大して裕福ではない中流家庭にとって、莫大な資金を要する私費留学はかなりの負担になる。何と言ってもこの点が大きい。


昨日通知が来て、受け入れ先の大学も無事決定した。出発は一ヵ月後の八月十五日。準備万端とは言い難いが、より良い留学生活のために出来る限りのことはしたいと思っている。